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Vol.316 映画とは呼吸を合わせるエロスな行為なのかもしれない『ヘブンズストーリー』 [韓国と関係ない話]

 去る11月3日、渋谷のユーロスペースに映画を観に行く。
 目的は瀬々 敬久監督作品『ヘブンズストーリー』だ。

 実は東京での公開は11月5日まで、休日最後の上映である。
 なにせ上映時間4時間38分、つまり劇場には5時間越えの缶詰になるわけだから、なかなか踏ん切りがつかず、とうとう、実質的な最終日に参上とあいなってしまった。

 映画というものは不思議なもので「呼吸」が合えば、疲れていようと眠たかろうと、全然睡魔に襲われたりはしない。
 かつて、ベルナルド・ベルトルッチ作品『1900年』や小林 正樹作品『人間の條件』のイッキ観やったことがあるけれど、面白過ぎて、逆にハイになってしまったくらいであった。
 ただし、今回は瀬々作品、観る側としてテンションが維持できるか、ちょっと自信がなかった。

 当日、どうせバカ混みだろうとかなり早めにチケットを切ってもらって、近所のカフェで寝ていたが、やっぱり私のように慌てて飛び込みで来た人が多かったのか、劇場は満席だったので、ラッキー。
 上映会場がスペース2の方だったのも運が良かった。
 スペース1の方だったら、かなりの苦行と化していたはず。

 さて、肝心の作品の方だが、過酷な約5時間ではあったものの、観終えると映画的快楽に満ちた5時間でもあった。

 『ヘブンズストーリー』は、ノーテンキなエンタティメントではないし、釈然としない部分、ノレない部分もたくさんあって、決して手放しでは賞賛できない作品ではあったけど、それらのマイナス点を超えてなによりも感動的だったのは、作り手側の呼吸と観る側の呼吸が合わさって初めて生まれる静かな熱気が劇場内に満ちていたことだった。
 どういう訳か途中で空調が止められてしまい、物理的に劇場が酸欠&高温状態だったこともあるけれど、文字通り、熱気がムンムン、こんなに一体感溢れた映画的経験は久しぶりだった。
 韓国映画の監督インタビューでは「観客と息を合わせる」といった意味の言葉が時々出てくるけど、まさにそれを実地で行くひとときだった。

 この『ヘブンズストーリー』で素晴らしいのは、まず、何気ない風景が生み出す映像美だろう。
 「既在するもので美を作る」その手法には、まだまだ、大きな価値があることを気付かせてくれる。
 そして、もう一つの魅力は、お茶の間で全くお馴染みではない俳優たちが醸し出す「表情」の良さだ。
 この映画に確固たる主人公はいないが、サトを演じた若き女優、寉岡 萌季(つるおか もえき)が傑出して素晴らしい。

 撮影当時は、おそらく16歳から17歳くらいだったこともあるだろうけど、その独特の屈折した暗さ、狂気をはらんだ不安定さは、ティーンエイジ特有の暗黒オーラ全開で、おそらく彼女にとって一世一代の壮絶演技だったのかもしれない。
 寉岡 萌季は美人でもないし、可愛いわけでもないし、演技も上手いのかヘタなのか、よくわからないレベルだけど、全てがプラスのベクトルに働いて、彼女を輝かせる。

 おそらく、『ヘブンズストーリー』は寉岡 萌季にとって一生の財産になるだろうし、彼女が今後、女優を続けるとしても、この作品のサト役は超えられないかもしれない。
 かつての岩井 俊二作品『スワロウテイル』における伊藤 歩、ソン・イルゴン作品『羽根/깃』のイ・ソヨン(이소연)が見せた、唯一無二、今の彼女たちでは絶対無理な輝きを思い出してしまうのだった。

 そして更に驚いたのが、この映画の感性、そして視点が、『密陽』以降(つまり『詩』も含んだ)のイ・チャンドン作品にうりふたつだったことだろう。
 もちろん、内容は全然異なるのだけど、映画的遺伝子というものがあるとすれば、瀬々 敬久とイ・チャンドンはまるで双子のよう、前世のどこかで深い因縁があったんじゃないの?と考えてしまった。

 だから、『密陽』や『詩』が好きな人にとって『ヘブンズストーリー』はまさにストライクゾーンの作品であり、逆もまた然りなのではないだろうか(でも、私は『密陽』や『詩』の否定派です、あしからず)。

 緊張感を強いられる5時間を終えて、ふらふら状態で劇場ロビーに出ると、さらにサプライズが待っていた。
 なんと、山崎 ハコがいて、みんなに挨拶をしている。
 そしてダンディな瀬々 敬久監督の姿も。
 だが、愉快なのは、観客が誰も彼らに話しかけないことだ。

 でも、それもまた、ユーロスペースらしい光景であって、この劇場に相応しい観客としての仁義だったのかもしれない。

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